「社会福祉法人の存在理由」


 近年の社会福祉改革によって、老人福祉施設介護老人福祉施設となり、障害者施設もまた、障害者自立支援法によって運営される施設へと再編成が行われた。これらの社会福祉施設のありようの中で我われ施設関係者が嘆かわしく感じることは、社会福祉法人とは利益追求の事業体と勘違いして行動している法人の多いことである。
 高齢社会の到来を控えて国は、国費の出費を抑えるために十分な議論をしないまま性急に介護保険制度を造ってしまった。介護保険制度がすべて悪いとは言わない。むしろ護送船団方式のような措置費制度のほうが問題点は多かったと思う。しかし、介護保険制度はもう少し時間をかけるべきであった。超高齢社会到来の現実が目前にあるからこそ、「国家百年の計」を立てなければいけなかったと思う。
介護保険制度という山へ登るためには、将来のビジョンを明確にし、めざすべきゴールへいたる最適なルートの選定(制度論)と必要な装備(介護費用・介護報酬)、それに困難な登攀が可能で頑健な体力を有するアルピニスト社会福祉法人(老人福祉施設)》がいなければ登頂できない。
 しかるに介護保険制度を造るにあたって国は、
一、将来のビジョンを明確に国民に見せなかった。つまり、超高齢社会の老人のあり方を明確に設計しなかった。
ニ、ゴールへの最適ルート選定を急ぎすぎた。つまり、制度の運用に躓くたびに制度変更を余儀なくされるようなものを造ったのだ。
三、山登りにどんな装備が必要でその素材は、質は、量は、ということを十分に議論しないまま装備を決めてしまった。結局、三年に一回装備を見直すことになり、そのつど、ゴールへいたる時間と体力の消費が起こることになった。
四、体力を消耗したアルピニスト(専門家あるいは使命感を抱いた社会福祉法人)と肥満気味だが社会福祉法人の存在理由に経済指標を最優先する登山者(登山家ではない)を登山道に踏み込ませることになってしまったのである。
 しかし、悔やんでも始まらない。すでに登山は始まったのだ。我われ専門的登山家は、たとえ苦難の多い山であろうと、必要な装備の確保に努め、自らルートを切り開き、物心共に豊かな高齢社会の創造をすべく、山頂に登って石を積み上げなければならない。つまり、自分たちの手(サービス)で付加価値をつけ、専門的自己という自負心(使命感)によって「社会福祉法人の存在理由」を世に示すことで、社会からの支持と信頼を獲得できるのである。
 
谷深く 険しき峰を 初登山 世に勝ち(価値)上がり
一貫《千文・清廉さ(専門・評価)》を得る