個別ケアの推進のために“施設概念の転換”

「介護」から「生活支援」へ

                        前田光泰

1.介護者不在の施設にならないために
 高齢者の増加と反比例するかのように、近年、景気の回復傾向に伴って福祉施設への就職希望者が年々減少しつつある。また、悲しいことに従事者の離職率が平均で約20%というのも福祉職場の特色である。このような状況が数年続くと、介護老人福祉施設において従事者が不在のために本来提供できるサービスが提供できなくなってしまうことにもなりかねない。このまま放置すると将来的には大きな社会問題になりかねない危惧を覚える。また、介護保険制度は持続できない制度になってしまう。そうなる前、つまり次の介護報酬見直しの時期までに我われ施設関係者が結束して事態打開の方策を訴えていく必要がある。事例やデータをもとに介護報酬の中に介護従事者がインセンティブを得られる報酬となるように運動し、福祉職場へのモチベートが図られる仕組みを構築しないといけない。あるいは、昔、デモしか先生といわれた頃に〔教職員特別措置法〕が優れた人材の確保と学校教育の水準の維持向上がはかられたように、「福祉人材確保に関する特別措置法」制定へと運動するべきではないかとさえ考えるほど、憂慮すべき事態に至っている。
 また、魅力ある仕事とするためには、仕事の中身を改めてつくりなおす必要があるが、これについてはあとで述べる。
 
2.概念の誤り
介護保険制度そのものをよく検討しなかったからこのような錯誤が生じてしまった。我われは〔介護保険制度〕そのものを新時代を迎える錦の御旗のように捉えていた幻想があるのではないか。介護保険制度ありきからスタートしたので、何の疑念もなくみんながすべての事象を介護、介護と言い立てたところから間違ったのである。
しかし、今になって考えてみると施設が利用者に対して行う業務は介護一辺倒では決してない。利用者の生活の全体に関わることが施設職員、とりわけサービス担当職員であるとすれば、その業務はむしろ「生活支援」に重点をおくべきではなかったのだろうか。
現状、施設が提供している利用者へのサービス量は、介護6、ハウスキーピング3、生活支援1くらいの割合である。これは、介護保険制度によって目くらまされた数字ではないかと疑っている。
そもそも介護保険制度の創設時には、サービスの方向を居宅介護へ政索誘導したこともあり、要介護度が決められ、それに基づいた介護サービスの需給量が決まることになってしまった。居宅介護については、介護以外の普段の生活は家族が支援するか、あるいは要支援程度の人であれば自分のことは自分でまかなっている。居宅においては、必要な介護サービスだけを受けるのであるからこれはこれでよい。
しかし、施設ケアを振り返った場合、利用者に提供するサービスは、生活の全般にわたることになり、その人にとっての施設のサービス量はそれぞれ異なるが、要介護度の軽度な人の生活支援に係るサービス量は、要介護度の重度な人の介護サービス量を軽く凌駕してしまうのである。
今後、我われ老人福祉施設がめざす方向は、「介護老人福祉施設」ではなく「高齢者生活支援施設」ではないだろうか。

3.魅力ある仕事づくりへ
 介護の現場はいつまでたっても3K職場である。たとえワーカーがいくら秀抜な排泄ケア技術をもったとしても、その介護の仕事の中から面白みや楽しみ、あるいは魅力は派生しない。技術を高めれば高めるほど現実とのギャップで失望感が増すばかりである。そこで施設概念を180度転換してみてはどうだろうか。
 「介護老人福祉施設」から「高齢者生活支援施設」へ施設の概念を変えてみると、個別ケアを目指す施設の施設像は、利用者への生活支援サービス量が5、介護サービス量3、ハウスキーピング2、という割合が妥当なところと考えられる。
 このように施設の中心業務を生活支援においてみると、利用者との密接な関わりをとおしての人間的なつながりや対人援助技術あるいは認知症ケアなどの専門性習得によるプロ意識の高揚などによって、仕事の中に専門性の高まり、面白さの発見、楽しみの創造を構築することができ、仕事の中に魅力を感じることにつながるのではないだろうか。

4.概念転換のための具体的作業
 これまで述べてきたように「介護老人福祉施設」の概念を「高齢者生活支援施設」へ転換していくためには、業務のあり方を思い切って切り替えないと可能とはならない。そのためには、管理者からプログラムを提示し、仕組みを換える必要がある。また、そのためには意識の転換が必要であり、理念共有までに多少の教育期間と習熟期間が必要であろう。
 さらに、次の介護報酬見直しの時期までに老人施設において問題の共有化をはかり、
①問題点の指摘
②あるべき姿の提示
③現状のデータ収集
④方策の提示
⑤介護報酬への組み入れ(場合によっては制度の見直し)
 等が行われるよう運動として組織していく必要がある。
 また、冒頭に触れたように、「福祉人材確保に関する特別措置法」のような法制化によって人材およびサービスの質の担保がはかられる必要があり、このことをムーブメントに展開していかなければならないと考えている。